鳥飼酒造

鳥飼語録

酒はもともと主食とする産物を発酵させて作ったもので、気候風土とセットで生まれました。カビの文化といわれるモンスーン気候の文化で、日本では麹菌という微生物を使って酒を造るわけです。

子供の頃、父が大事にしていたウィスキーをいたずらでチョコチョコ飲んでいたのがバレて叱られるかと思いきや、
「これから酒の飲み方を教える」と諭されました。その時に覚えたのがワンショットグラス、チェイサー、スピリッツという言葉でした。

「蒸留酒というのはスピリッツと言って、民族の魂という意味なんだ。」
この言葉が今でも離れなく、頑張れる原点です。

焼酎の「焼」は、もろみに熱を加えるという意味です。「酎」は、濃い酒という意味です。
自然発酵は清酒の技術で22パーセント、これ以上濃い酒を求めようとすると、蒸留せざるを得ないわけです。
「焼酎」というのは「蒸留酒」という意味なのです。

焼酎造りは温度管理が重要です。仕込んで一晩もすると発酵熱で温度が上がって来ます。一種の代謝熱で人間の体温と思って頂ければ良いと思います。温度計で計った温度は発酵物全体の一点に過ぎない。
若い時、滅菌剤で身を潔めて腕の肩の所まで漬けた後、カメの中に入ってみました。手で探ると全体に温かいのではなく熱さがチカチカと点滅するような刺激を皮膚に感じたのでした。

ぼくの仕事はブランドを作っていくことなんですけれど、過大にも過小にも見てほしくない。普通に認めてほしい。

かつて酒造元では子供が酒を飲むのに寛大でした。小学校三年10才の頃に飲んだヴィンテージポートワイン200年物の味と香りが強い記憶となって残っています。
よい酒というのは子供でもわかるんです。ぼくは「通」の酒を作ろうとは思わない。女性や子供でも美味しさがわかって、通がうなる酒が本物じゃないかと思います。

清流を護るためには、ひとたび人手のはいった森は自然林といえども手入れを必要としています。

私どもの発酵の世界は自然と人間の際にあります。こんな時こそ、自然の動きに学びたいと考えています。

健全な森からこそ清らかな水は生まれます。

麹菌一つとっても、人間の体温は37度を境に±5度が限界ですが、麹菌は生存域の温度幅が±15度と大きく、胞子の状態では5度でも生き延びます。酒造りの日常では麹菌や酵母菌の多様な能力に驚かされる事が度々です。

私たち醸造家の祖先は「目に見えないけど確かに存在する」菌類を相手に、なんの計測器もない時代に五感のみで発酵文化を築いたのです。

15haの広大な丘の上に、小さく麹蔵を建てたのは周囲から微生物の侵蝕を避けるため、
そして洗米排水を例え浄化したとしても草津川の清流に流さないことを目的としたからです。

吟醸麹(精白度58パーセント)を常とする私どもの蔵では、蒸米の含水率は1パーセント以内、麹標準温度1度以内の誤差でないと美しい香りは得られません。

多くの蔵人達が夜中の作業を厭わないのは、誰かにやらされてやっているわけではなく、造り手の誇りをかけて働いているのです。